退職金は長期間にわたる勤務の対価の一括後払いという面を持つとともに、退職後の生活の重要な原資になるもののため、退職所得控除や2分の1課税による所得計算などにより税負担を軽減する措置が講じられています。
ただし、勤続年数5年以下の役員等の退職金については、2分の1課税の措置を適用しないこととされています。また、令和3年税政改正により、勤続年数5年以下の役員等以外の退職金についても、2分の1課税の措置の適用について変更が行われました。
退職により勤務先から受ける退職金などの退職所得の金額は、原則として次のように計算します。
(収入金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額
退職所得控除額は、勤続年数に応じて計算されます。
・勤続年数が2年以下の場合は80万円
・勤続年数が3年から20年の場合は40万円×勤続年数
・勤続年数が20年を超える場合は800万円+70万円 × (勤続年数-20年)
上記の計算式のとおり、収入金額から 退職所得控除額を差し引いた金額に2分の1を乗じた金額が退職所得となります(退職所得の2分の1課税)。
退職所得の2分の1課税により、所得金額が軽減されることを利用して、当初から短期間の在職を予定している者が、意図的に在職中の給与を低くして、それを補うように退職金を高くすることで所得税を軽減する事例が見られました。
そのため、平成24年の税制改正において、役員等で勤続年数が5年以下である者が支払を受ける退職金のうち、その役員等勤続年数に対応する退職金として支払を受けるものについては、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額を退職所得の金額とし、上記計算式の1/2計算の適用はしないという改正が行われました。
しかし、平成24年の税制改正後は、あえて役員等には就任せずに、短期間の在職後に高額の退職金を受け取るといった事例が見られました。また、近年では終身雇用制度が崩れ、短期間に転職を繰り返すことも珍しくなくなるなどの雇用慣行の変化も進んでいます。
それに対応するため、令和3年の税制改正において、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下である場合に受け取った退職金についても、退職所得控除額を控除した残額のうち300 万円を超える部分については、2 分の 1 課税の適用から除外されることとなりました。なお、300 万円を超えない部分については、従前どおりに2 分の1課税が適用されます。
勤続年数5年で退職金が1,000万円とした場合で、改正前と改正後の退職所得の金額を比較すると下記のようになります。
改正前は、収入金額1,000万円から、退職所得控除額200万円(40万円×5)を差し引いた金額800万円に2 分の1乗じた400万円が退職所得となります。
改正後は、収入金額1,000万円から、退職所得控除額200万円(40万円×5)を差し引いた金額800万円のうち300万円には2 分の1乗じますが、300万円超える金額には2 分の1乗じずにそのままの金額が退職所得となります。
つまり、300万円に2 分の1乗じた150万円と300万円超える金額500万円(800万円-300万円)の合計650万円が退職所得となります。
退職所得の金額の計算にかかる上記の改正は、令和4年分以後の所得税について適用されます。