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退職所得の改正(令和3年税政改正)

退職金は長期間にわたる勤務の対価の一括後払いという面を持つとともに、退職後の生活の重要な原資になるもののため、退職所得控除や2分の1課税による所得計算などにより税負担を軽減する措置が講じられています。
ただし、勤続年数5年以下の役員等の退職金については、2分の1課税の措置を適用しないこととされています。また、令和3年税政改正により、勤続年数5年以下の役員等以外の退職金についても、2分の1課税の措置の適用について変更が行われました。

退職により勤務先から受ける退職金などの退職所得の金額は、原則として次のように計算します。

(収入金額 - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

退職所得控除額は、勤続年数に応じて計算されます。

・勤続年数が2年以下の場合は80万円
・勤続年数が3年から20年の場合は40万円×勤続年数
・勤続年数が20年を超える場合は800万円+70万円 × (勤続年数-20年)

上記の計算式のとおり、収入金額から 退職所得控除額を差し引いた金額に2分の1を乗じた金額が退職所得となります(退職所得の2分の1課税)。

退職所得の2分の1課税により、所得金額が軽減されることを利用して、当初から短期間の在職を予定している者が、意図的に在職中の給与を低くして、それを補うように退職金を高くすることで所得税を軽減する事例が見られました。

そのため、平成24年の税制改正において、役員等で勤続年数が5年以下である者が支払を受ける退職金のうち、その役員等勤続年数に対応する退職金として支払を受けるものについては、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額を退職所得の金額とし、上記計算式の1/2計算の適用はしないという改正が行われました。

しかし、平成24年の税制改正後は、あえて役員等には就任せずに、短期間の在職後に高額の退職金を受け取るといった事例が見られました。また、近年では終身雇用制度が崩れ、短期間に転職を繰り返すことも珍しくなくなるなどの雇用慣行の変化も進んでいます。

それに対応するため、令和3年の税制改正において、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下である場合に受け取った退職金についても、退職所得控除額を控除した残額のうち300 万円を超える部分については、2 分の 1 課税の適用から除外されることとなりました。なお、300 万円を超えない部分については、従前どおりに2 分の1課税が適用されます。

勤続年数5年で退職金が1,000万円とした場合で、改正前と改正後の退職所得の金額を比較すると下記のようになります。

改正前は、収入金額1,000万円から、退職所得控除額200万円(40万円×5)を差し引いた金額800万円に2 分の1乗じた400万円が退職所得となります。

改正後は、収入金額1,000万円から、退職所得控除額200万円(40万円×5)を差し引いた金額800万円のうち300万円には2 分の1乗じますが、300万円超える金額には2 分の1乗じずにそのままの金額が退職所得となります。
つまり、300万円に2 分の1乗じた150万円と300万円超える金額500万円(800万円-300万円)の合計650万円が退職所得となります。

退職所得の金額の計算にかかる上記の改正は、令和4年分以後の所得税について適用されます。

 

在宅勤務に係る費用の負担等に関する税務上の取り扱い

新型コロナウイルス感染症の拡大により、在宅勤務が広がっていますが、会社が従業員に在宅勤務手当を支給した場合、従業員の給与として課税する必要はあるのかなど税務上の取り扱いについて説明したいと思います。

在宅勤務手当としてではなく、在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、会社が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

例えば、在宅勤務のため従業員へ貸与する事務用品等や、在宅勤務に係る環境整備に関する物品等の購入した場合、給与として課税されないためには次のような方法が考えられます。

(1)会社が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後、 従業員が業務のために使用する事務用品等や在宅勤務に係る環境整備に関する物品等を購入して、その領収証等を会社に提出し購入費用の精算をする方法

(2)従業員が業務のために使用する事務用品等や在宅勤務に係る環境整備に関する物品等を立替払いにより購入した後、それに係る領収証等を会社に提出して購入費用を精算する方法

上記(1)の方法(会社が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いする方法)で、仮払いした金額が購入費用を超過する場合は、その超過部分を会社に返還する必要があります。超過した部分を従業員が会社に返還しなかったときは、超過部分はその従業員に対する給与として課税する必要があります。

在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法ではなく、会社が従業員に在宅勤務手当として毎月一定額を渡切りで支給した場合などは、従業員に対する給与として課税する必要があります。

なお、自宅に在宅勤務をするスペースがない従業員に対して、自宅近くのレンタルオフィス等で在宅勤務をすることを会社が認めている場合、上記の(1)または(2)の方法により、その費用の実費相当額を精算したときは、その金額について従業員に対する給与として課税する必要はありません。

また、会社が所有する事務用品等(パソコン等)を従業員に貸与する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

しかし、会社が従業員に事務用品等を支給した場合(事務用品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります。

上記の貸与については、例えば、会社が専ら業務に使用する目的で事務用品等を従業員に支給という形で配付し、その配付を受けた事務用品等を従業員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときには返却を必要とする場合も、貸与として認められます。

 

低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除

令和2年度の税制改正により、個人が、令和2年7月1日から令和4年12月31日までの間に、都市計画区域内にある一定の低未利用土地等を500万円以下で売った場合には、その年の低未利用土地等の譲渡に係る譲渡所得の金額から100万円(当該長期譲渡所得の金額が100 万円に満たない場合には、当該長期譲渡所得の金額)を控除することができることになりました。

この特例を受けるためには、次の要件を満たすことが必要となります。

(1)売った土地等が、都市計画区域内にある低未利用土地等である(注1)。

(2)売った年の1月1日において、所有期間が5年を超えること。

(3)売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと(注2)。

(4)売った金額が、低未利用土地等の上にある建物等の対価を含めて500万円以下であること。

(5)売った後に、その低未利用土地等の利用がされること。

(6)この特例の適用を受けようとする低未利用土地等と一筆であった土地から前年又は前々年に分筆された土地又はその土地の上に存する権利について、前年又は前々年にこの特例を受けていないこと。

(7)売った土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど、他の譲渡所得の課税の特例を受けないこと。

(注1)低未利用土地等とは、居住の用、事業の用その他の用途に利用されておらず、又はその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途若しくはこれに類する用途に利用されている土地の利用の程度に比し、著しく劣っている土地や当該低未利用土地の上に存する権利のことをいいます。

国土交通省の課長通知(国土動整第8号)によると、低未利用土地とは、具体的には、空き地(一定の設備投資を行わずに利用がされている土地を含む)及び空き家・空き店舗等の存する土地とする。 ただし、コインパーキングについては、一定の設備投資を行い、業務の用に供しているものではあるが、譲渡後に建物等を建ててより高度な利用をする意向が確認された場合は、従前の土地の利用の程度がその周辺の地域における同一の用途又はこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っており低未利用土地に該当すると考えて差し支えないとされています。

(注2)特別な関係には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

この特例を受けるためには、この特例を受ける旨記載した確定申告書に、次の書類等を添付して提出することが必要となります。

(1)譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]

(2)売った土地等の所在地の市区町村長の、次の①から④までに掲げる事項を確認した旨並びに⑤及び⑥に掲げる事項を記載した書類(低未利用土地等確認書)

①売った土地等が都市計画区域内にあること

②売った土地等が、売った時において低未利用土地等に該当するものであること

③売った土地等が、売った後に利用されていること又は利用される見込みであること

④売った土地等の所有期間が5年を超えるものであること

⑤売った土地等と一筆であった土地からその年の前年又は前々年に分筆された土地等の有無

⑥上記⑤の分筆された土地等がある場合には、その土地等につき(2)の低未利用土地等確認書のその土地等を売った者への交付の有無

(3) 売った金額が、低未利用土地等の上にある建物等の対価を含めて500万円以下であることを明らかにする書類(売買契約書の写し等)

上記(2)の低未利用土地等確認書を市区町村に交付申請する時には、申請書や売買契約書の写し、確認する土地等の登記事項証明書の他に、低未利用土地等であることが確認できる書類、譲渡後の利用についての確認書類も必要となります。詳細については、売った土地等の所在地の市区町村のホームページなどでご確認ください。

なお、低未利用土地等確認書の申請から交付まで、通常ある程度の時間が必要となりますので、税務署での手続き期限を考慮し、余裕を持って申請することが必要と思われます。

固定資産税・都市計画税の軽減措置

新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の一環として、事業収入が一定額以上減少している中小企業者・小規模事業者に対して、2021年度の事業用家屋及び償却資産に係る固定資産税・都市計画税の軽減措置が講じられています。

具体的には、2021年2月から10月までの任意の連続する3ヵ月間の事業収入の対前年同期比減少率が、50%以上減少した場合は全額、30%以上50%未満の減少の場合は2分の1だけ、2021年度の事業用家屋及び償却資産に係る固定資産税・都市計画税が減免されます。

事業収入とは、一般的な収益事業における売上高と同義であり、給付金や補助金収入、事業外収益などの一時的収入は含みません。

当該軽減措置の対象となる中小企業者・小規模事業者(以下中小企業者等とします)の範囲は下記のとおりです。

1・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人

2・資本又は出資を有しない法人又は個人は従業員1,000人以下の場合

ただし、大企業の子会社等は対象外となります。

上記1又は2に該当する場合は、医療法人、社会福祉法人、公益法人、特定非営利活動法人(NPO法人)、宗教法人も当該軽減措置の対象になります。

当該軽減措置の適用を受けようとする中小企業者等は、対象設備の所在する各地方自治体が定める申告書に、認定経営革新等支援機関等の確認を得た必要書類を添えて、2021年1月以降に申告期限(2021年1月末)までに固定資産税を納付する市町村に軽減を申告します。
複数の市町村に固定資産税を納付している場合は、それぞれの市町村に軽減を申告する必要があります。

認定経営革新等支援機関等に確認を受ける事項は下記のとおりです。

1・中小企業者等(個人、法人)であること

・ 個人については、(ア)常時使用する従業員数が1,000人以下であること、(イ)性風俗関連特殊営業を行っていないことを申告書の誓約事項で確認を受けます。

・法人については、(ア)資本金等要件を満たすこと、(イ)大企業の子会社等でないこと、(ウ)性風俗関連特殊営業を行っていないことを申告書の誓約事項で確認を受けます。

2・事業収入の減少

会計帳簿等で、2020年2月~10月までの任意の連続する3月の期間の事業収入の合計が前年同期間と比べて一定額以上減少していることの確認を受けます。

3・特例対象家屋の居住用・事業用割合

青色申告決算書・収支内訳書等で、特例対象家屋の居住用・事業用割合の確認を受けます。

なお、当事務所も谷義孝公認会計士事務所で、経営革新等支援機関の認定を受けています。

消費税の簡易課税制度の適用に関する特例

消費税の簡易課税制度の適用に関しては、現行法において、「災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合」 の特例が設けられています(消費税法 37 条の2)。「災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合」には、地震や風水害などの自然災害により被害を受けた場合だけではなく、新型コロナウイルス感染症の影響による被害を受けた場合も該当します。

消費税の納付税額は、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除して計算するのが原則です。しかし、その課税期間の前々年又は前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している場合は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる簡易課税制度の適用を受けることができます。

簡易課税制度の適用を受けるためには、納税地を所轄する税務署長に、原則として適用しようとする課税期間の開始の日の前日までに(事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中に)、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

また、簡易課税制度の適用をとりやめて実額による仕入税額の控除を行う場合には、原則として、適用をやめようとする課税期間の開始の日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。

しかし、消費税の簡易課税制度の適用に関しては、「災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合」の特例が設けられており、新型コロナウイルス感染症の影響による被害を受けたことにより、簡易課税制度の適用を受ける(又はやめる)必要が生じた場合も、税務署長の承認により、その被害を受けた課税期間から、その適用を受ける(又はやめる)ことができます。

新型コロナウイルス感染症等の影響による被害を受けたことで、

・通常の業務体制の維持が難しく、事務処理能力が低下したため簡易課税へ変更したい

・ 感染拡大防止のために緊急な課税仕入れが生じたため一般課税へ変更したい

などの事情がある事業者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けることにより、課税期間開 始後であっても、簡易課税制度を選択する(又は選択をやめる)ことができます。

感染拡大防止のための緊急な課税仕入れとしては、例えば下記のようなものが考えられます。

・ 従業員を分散して勤務させるため、別の事務所を緊急で借り上げた

・ 感染予防のため、パーティションを設置するなどの増設工事を行った

・ 消毒液やマスクなどの衛生用品を大量に購入した

簡易課税制度の適用に関する特例を受けるためには、新型コロナウイルス感染症等の影響による被害がやんだ日から2月以内に「災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」と併せて、「消費税簡易課税制度選択(不適用)届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

被害のやんだ日が、その申請に係る課税期間の末日の翌日(個人事業者の場合は、その末日の翌日から 1 月を経過した日)以後に到来する場合には、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までに、上記の書類を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

なお、この特例の適用を受ける場合、2年間の継続適用要件は適用されません。また、調整対象固定資産や高額特定資産等を取得した場合の「消費税簡易課税制度届出書」の提出制限も適用されません。

 

消費税の課税選択の変更に係る特例

消費税の課税事業者の選択(又は選択不適用)については、原則として、「消費税課税事業者選択届出書」又 は「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から効力が発生することとなっていますが、新型コロナウイルス感染症等の影響を受けている事業者で一定の要件を満たす方について、納税地の所轄税務署長の承認を受けることで、特定課税期間以後の課税期間について、課税期間の開始後であっても、課税事業者を選択する(又は選択をやめる)ことができる特例が設けられました。

この特例の適用により課税事業者を選択する(又は選択をやめる)場合、2年間の継続適用要件は適用されません(特例により課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能です)。

また、課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に調整対象固定資産(一の取引単位につき 100 万円(税抜き)以上の固定資産をいいます)を取得した場合の「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出制限も適用されません。

特例の対象となる事業者は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの間のうち任意の1か月以上の期間(以下調査期間とします)の事業としての収入が、著しく減少(前年同期比概ね50%以上減少)している事業者です。

新型コロナウイルス感染症等の影響による事業としての収入の減少とは、事業としての収入の著しい減少が新型コロナウイルス感染症等の影響に因果関係を有することをいい、例えば、下記のような状況となったため収入が減少した場合をいいます。

⑴ 事業者本人やその親族、会社の従業員が新型コロナウイルス感染症に感染した(又は感染の疑いがあった)ため事業を休業した。

⑵ 国や都道府県等の要請により、イベントや営業を自粛した。

⑶ 国や都道府県等の外出自粛要請により従業員を自宅待機させる等の対応をとったことから、営業規模や営業時間を縮小した。

⑷ 国や都道府県等の外出自粛要請により来客が減少した。

⑸ 入国制限措置により来客が減少した。

⑹ 国や都道府県等の要請により、賃料の支払を猶予した。

特例の対象となるかどうかを判定する際の「収入金額」の計算に当たっては、事業者の事業上の売上その他の経常的な収入の額を含めますが、各種給付金など臨時的な収入は含めません。

また、新型コロナウイルス感染症等の影響により、事業者が収入すべき対価の額を減免又は猶予した場合のその減免額又は猶予額についても「収入金額」に含めません。

例えば、不動産賃貸人が政府の要請に基づき賃借人が支払うべき賃料の支払を猶予していると認められる場合、発生主義に基づき未収入金等を計上する会計処理を行っている時でも、「収入金額」の計算に当たっては、調査期間における賃料収入に計上される額からその猶予額を控除します。

特例の承認を受けようとする場合、「新型コロナ税特法第 10 条第1項(第3項)の規定に基づく課税事業者選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」に、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があったことを確認できる書類(以下「確認書類」とします)を添付して、下記の申請期限までに納税地の所轄税務署長に提出してください。

なお、承認申請書と併せて「消費税課税事業者選択(不適用)届出書」も提出してください。

特例承認申請書に添付する「確認書類」とは、例えば、損益計算書、月次試算表、売上帳、現金出納帳、預金通帳のコピーなどで、令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの間のうち任意の1か月以上の期間(調査期間)と、その調査期間に対応する期間の事業としての収入の金額が確認できる書類をいいます。

特例承認申請書の申請期限は下記のとおりです。

【課税事業者を選択する場合 】

特定課税期間の末日の翌日から2月以内。個人事業者の12月31日の属する課税期間である場合には3月以内となります。

特定課税期間とは、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった期間内の日を含む課税期間をいいます。

【課税事業者の選択をやめる場合】

⑴ 特定課税期間から課税事業者の選択をやめる場合は、特定課税期間に係る確定申告書の提出期限が特例承認申請書等の提出期限となります。

⑵ 特定課税期間の末日が、課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となった課税期間の初日以後2年を経過する日(以下「2年経過日」とします)以後に到来する場合で、その特定課税期間の翌課税期間以後の課税期間から課税事業者の選択をやめる場合は、特定課税期間に係る確定申告書の提出期限が特例承認申請書等の提出期限となります。

⑶ 上記⑴、⑵以外の場合は、「2年経過日の属する課税期間の末日」と「課税事業者の選択をやめようとする課税期間の末日」とのいずれか早い日が特例承認申請書等の提出期限となります。

新型コロナウイルス感染症の影響で賃料の減額を行った場合の税務

店舗用物件やテナント等を賃貸する不動産貸付業を行っている事業者が、物件を賃借している事業者から、新型コロナウイルス感染症の影響による経営の悪化を理由に、賃料の減額を求められ、それに応じた場合、その賃料の減額分について税務上の取扱がどうなるかが気になるところだと思います。

事業者が、賃貸借契約を締結している取引先等に対して賃料の減額を行った場合、その賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の賃料の額と減額後の賃料の額との差額については、原則として、相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上、取り扱われることになります。

しかし、下記の条件を満たすものであれば、実質的には取引先等との取引条件の変更と考えられ、その減額した分の差額については、寄附金として取り扱わないことが、国税庁の文書で示されています。

(1)取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること

(2)その賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること

(3)賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます)内に行われたものであること

実務上の作業としては、(2)の賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであることを、確認できる文書の作成を漏らさずに行うことが、重要になると思われます。

なお、この取扱いは、次の場合も上記と同様に取り扱われます。

・取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合

・テナント以外の居住用物件や駐車場などの賃貸借契約において賃料の減免(債権の免除等)を行う場合

以上は賃貸側の税務上の取り扱いですが、賃借側(賃料の減免を受けた側)の税務上の取り扱いは下記のようになります。

賃料の減免を受けた賃借人(事業者)においては、減免相当額の受贈益が生じることになります。
ただし、事業年度(個人の場合は年分)を通じて、受贈益を含めた益金の額(収入金額)よりも損金の額(必要経費)が多い場合には、結果的に課税されません。

新型コロナウイルスの感染拡大等に伴う納税猶予の特例

新型コロナウイルス感染症およびその感染拡大の防止のための措置の影響により、多くの事業者等の方々の収入が減少しているという状況に陥っています。そのような状況を踏まえて、令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までに納期限が到来する国税(所得税、法⼈税、消費税等)について、「財産の損失」が生じていない場合でも、無担保かつ延滞税なしで1年間納税の猶予を受けられる制度が創設されました(特例猶予)。

以下のいずれも満たす⽅(個⼈・法⼈の別、規模は問わず)が特例猶予の対象となります。

(1)新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2⽉以降の任意の期間(1か⽉以上)において、事業等に係る収⼊が前年同期と比較して概ね20%以上減少していること。

(2)⼀時に納税することが困難であること。

(1)における「事業等に係る収⼊」とは、法⼈の収⼊(売上⾼)のほか、個⼈の⽅の経常的な収⼊(事業の売上、給与収⼊、不動産賃料収⼊等)を指します。
個⼈の⽅の「⼀時所得」などについては、通常、新型コロナウイルスの影響により減少するものではないと考えられますので、「事業等に係る収⼊」には含まれません。

また、新型コロナウイルス感染症等の影響による事業等に係る収⼊の減少とは、例えば、納税者又はその親族、従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したことによる影響のほか、イベント開催又は外出等の自粛要請、入国制限、賃料の支払猶予要請等の各種措置による影響等により、収入の減少があった場合が該当します。

(2)における⼀時に納税することが困難かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資⾦を考慮にいれるなど、申請される⽅の置かれた状況に配慮し適切に対応するとされています。

なお、対象期間の損益が⿊字であっても、収⼊減少など上記の要件を満たせば特例猶予を利⽤できます。

特例猶予の申請は、納期限までに提出する必要があります。ただし、関係法令の施行日(令和2年4月 30 日)から2か月を経過する日(令和2年6月 30 日)までは、納期限後においても申請することができます。

そのため、特例猶予の創設前である令和2年2月1日から6月 30 日までに納期限が到来する国税についても、関係法令の施行日から2か月を経過する日(令和2年6月 30 日)までに申請すれば、特例猶予の適用を受けることが可能です。

特例猶予の申請に必要な書類は、納税の猶予申請書(特例猶予用)と下記の書類です。

(1) 本年と昨年の収支状況が記載された元帳や売上帳などの帳簿(会計ソフトから出力した収支状況が記載された書類(試算表等)でも可)。

(2)手元資金の有り高が分かる現金出納帳や預金通帳

なお、納税の猶予申請書(特例猶予用)の具体的な記載方法については、こちら(国税庁ホームページ)をご覧ください。

青色申告特別控除の適用要件の変更

平成30年度の税制改正により、令和2年分の所得税確定申告から65万円の青色申告特別控除の適用要件が変更されています。

令和元年分までは、取引を正規の簿記の原則により記帳して、貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、法定申告期限内に提出すれば、65万円の青色申告特別控除が適用されていました。

令和2年分からは、上記の要件を満たす場合の青色申告特別控除の金額は55万円に引き下げられて、これに加えて、次のいずれかの要件を満たす場合に、65万円の青色申告特別控除の適用を受けることができるように変更されています。

・その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、所轄の税務署長の承認を受けて電子帳簿保存を行っていること。

・その年分の所得税の確定申告書及び青色申告決算書を、法定提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)により電子申告すること。

確定申告会場でパソコンにより確定申告書を電子申告していることがありますが、税務署のパソコンでは、青色申告決算書等のデータを e-Tax で送信することはできないため、65 万円の青色申告特別控除を受けられませんので注意が必要です。

なお、簡易な記帳による場合の10万円の青色申告特別控除については、適用要件の変更はありません。

大法人の電子申告の義務化

平成30年度税制改正により、「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、資本金の額が1億円を超える法人など一定の法人が行う法人税等の申告は、令和2年4月1日以後開始する事業年度(課税期間)から電子申告(e-Tax)により提出しなければならないこととされました。

電子申告の義務化の対象となる税目は、次のとおりです 。
(1)法人税及び地方法人税
(2)消費税及び地方消費税
上記の国税以外に、地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化されます。

電子申告の義務化の対象となる法人は、次のとおりです。
(1)法人税及び地方法人税の場合
内国法人のうち、
・ 事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1 億円を超える法人
・ 相互会社、投資法人及び特定目的会社
(2)消費税及び地方消費税の場合
(1)に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体

内国法人には、公共法人(消費税及び地方消費税のみ)・公益法人等・協同組合等を含みます。なお、人格のない社団等及び外国法人は、資本金の額又は出資金の額の有無にかかわらず電子申告の義務化対象法人には含まれません。

電子申告の義務化の適用時期、届出書の提出は、次のとおりです。
電子申告の義務化は、「令和2年4月1日以後開始する事業年度(課税期間)」から適用されることとなります。

適用日(令和2年4月1日)以後、電子申告の義務化の対象となる法人は、納税地の所轄税務署長に対し,適用開始事業年度等を記載した届出書(「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」)を提出することが必要とされています。当該届出書については、既に申告書をe-Taxにより提出している場合でも提出する必要がありますのでご注意ください。

当該届出書の提出期限は、令和2年3月31日以前に設立された法人で、令和2年4月1日以後最初に開始する事業年度において義務化対象法人となる場合は、当該事業年度開始の日以後1か月以内となります。

電子申告の義務化の対象となる手続は、次のとおりです。
電子申告の義務化は、確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書の提出が対象です。

電子申告の義務化の対象となる書類は、次のとおりです。
電子申告の義務化の対象となる書類には、申告書だけではなく、法人税法等において申告書に添付すべきこととされている書類とされています。
したがって、法人税における財務諸表、勘定科目内訳明細書又は租税特別措置の適用に必要な書類や消費税の申告書付表などのいわゆる「添付書類」も含まれており、申告書と併せてe-Taxにより提出する必要があります。

電子申告の義務化は、申告方法をe-Taxに限定するもので、書面による申告書の提出は認められず、以下のような取り扱いとなるので注意が必要です。
・電子申告の義務化の対象となる法人が、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となります。

・法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限後にe-Taxにより提出した場合でも同様です。

・2期連続で法定申告期限内にe-Taxによる申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象となります。

なお、電子申告の義務化は、申告方法をe-Taxに限定するものであり、送信者までを限定するものではありません。したがって、電子申告の義務化対象法人であっても、税理士がe-Taxにより代理送信することは可能です。ただし、税理士に税務書類の作成を委嘱せずに、電子申告の代理送信のみを委嘱することは認められませんのでご注意ください。