新型コロナウイルス感染症の影響で賃料の減額を行った場合の税務

店舗用物件やテナント等を賃貸する不動産貸付業を行っている事業者が、物件を賃借している事業者から、新型コロナウイルス感染症の影響による経営の悪化を理由に、賃料の減額を求められ、それに応じた場合、その賃料の減額分について税務上の取扱がどうなるかが気になるところだと思います。

事業者が、賃貸借契約を締結している取引先等に対して賃料の減額を行った場合、その賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の賃料の額と減額後の賃料の額との差額については、原則として、相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上、取り扱われることになります。

しかし、下記の条件を満たすものであれば、実質的には取引先等との取引条件の変更と考えられ、その減額した分の差額については、寄附金として取り扱わないことが、国税庁の文書で示されています。

(1)取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること

(2)その賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること

(3)賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます)内に行われたものであること

実務上の作業としては、(2)の賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであることを、確認できる文書の作成を漏らさずに行うことが、重要になると思われます。

なお、この取扱いは、次の場合も上記と同様に取り扱われます。

・取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合

・テナント以外の居住用物件や駐車場などの賃貸借契約において賃料の減免(債権の免除等)を行う場合

以上は賃貸側の税務上の取り扱いですが、賃借側(賃料の減免を受けた側)の税務上の取り扱いは下記のようになります。

賃料の減免を受けた賃借人(事業者)においては、減免相当額の受贈益が生じることになります。
ただし、事業年度(個人の場合は年分)を通じて、受贈益を含めた益金の額(収入金額)よりも損金の額(必要経費)が多い場合には、結果的に課税されません。

新型コロナウイルスの感染拡大等に伴う納税猶予の特例

新型コロナウイルス感染症およびその感染拡大の防止のための措置の影響により、多くの事業者等の方々の収入が減少しているという状況に陥っています。そのような状況を踏まえて、令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までに納期限が到来する国税(所得税、法⼈税、消費税等)について、「財産の損失」が生じていない場合でも、無担保かつ延滞税なしで1年間納税の猶予を受けられる制度が創設されました(特例猶予)。

以下のいずれも満たす⽅(個⼈・法⼈の別、規模は問わず)が特例猶予の対象となります。

(1)新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2⽉以降の任意の期間(1か⽉以上)において、事業等に係る収⼊が前年同期と比較して概ね20%以上減少していること。

(2)⼀時に納税することが困難であること。

(1)における「事業等に係る収⼊」とは、法⼈の収⼊(売上⾼)のほか、個⼈の⽅の経常的な収⼊(事業の売上、給与収⼊、不動産賃料収⼊等)を指します。
個⼈の⽅の「⼀時所得」などについては、通常、新型コロナウイルスの影響により減少するものではないと考えられますので、「事業等に係る収⼊」には含まれません。

また、新型コロナウイルス感染症等の影響による事業等に係る収⼊の減少とは、例えば、納税者又はその親族、従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したことによる影響のほか、イベント開催又は外出等の自粛要請、入国制限、賃料の支払猶予要請等の各種措置による影響等により、収入の減少があった場合が該当します。

(2)における⼀時に納税することが困難かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資⾦を考慮にいれるなど、申請される⽅の置かれた状況に配慮し適切に対応するとされています。

なお、対象期間の損益が⿊字であっても、収⼊減少など上記の要件を満たせば特例猶予を利⽤できます。

特例猶予の申請は、納期限までに提出する必要があります。ただし、関係法令の施行日(令和2年4月 30 日)から2か月を経過する日(令和2年6月 30 日)までは、納期限後においても申請することができます。

そのため、特例猶予の創設前である令和2年2月1日から6月 30 日までに納期限が到来する国税についても、関係法令の施行日から2か月を経過する日(令和2年6月 30 日)までに申請すれば、特例猶予の適用を受けることが可能です。

特例猶予の申請に必要な書類は、納税の猶予申請書(特例猶予用)と下記の書類です。

(1) 本年と昨年の収支状況が記載された元帳や売上帳などの帳簿(会計ソフトから出力した収支状況が記載された書類(試算表等)でも可)。

(2)手元資金の有り高が分かる現金出納帳や預金通帳

なお、納税の猶予申請書(特例猶予用)の具体的な記載方法については、こちら(国税庁ホームページ)をご覧ください。